北極海や南極海、オホーツク海などで見られる海氷は、地球の気候変動に敏感に反応してその量が変化します。同時に、その海氷の増減が大気や海洋に大きな影響を及ぼしています。
北見市に面するオホーツク海は、海氷が発生する南端に位置する海域です。そのため、オホーツク海における海氷の発生は地球温暖化の影響を顕著に受けると考えられます。海氷は地球温暖化を緩衝する役割を持つことから、海氷の量や質を捉えそれらの変化を監視することは、科学的にも工学的にも重要です。また北極圏は大きく温暖化の影響を受けており、海氷面積の減少傾向が顕著です。海氷の減少が問題視される一方で、北極圏では海氷減少を利用した資源や航路の利用に多くの国が注目しています。
オホーツク海に面するサロマ湖や北極、南極の極域をフィールドに、氷状観測手法の開発を行っています。
南極観測で活躍する砕氷艦「しらせ」は、文部科学省国立極地研究所の日本南極地域観測隊の輸送?研究任務のために建造された南極観測船です。「しらせ」は、昭和基地への安定した物資、人員輸送のために必要不可欠です。したがって、南極観測の遂行には「しらせ」を確実に運行する必要があります。そのためには、「しらせ」の航路や基地周辺行動領域の海氷厚をあらかじめ知ることが重要です。
本研究では、昭和基地周辺で観測された現場データ、及び同領域の衛星データを用いて海氷厚を推定するためのアルゴリズムの開発を目指しています。船舶搭載型電磁誘導式氷厚計による海氷厚観測、可搬型マイクロ波放射計による海氷表面の垂直?水平の輝度温度計測、そして赤外温度計による温度計測を行い、データを収集します。
さらに海氷の種類を判別するため、目視観測を行います。宇宙航空研究開発機構(JAXA)から提供されている衛星搭載センサによって観測される7つの周波数帯を用いた垂直、水平の輝度温度と海氷密接度の衛星データも使います。開発する海氷厚推定アルゴリズムが、将来の南極海における砕氷船のナビゲーションに適用されることを目標としています。
毎年オホーツク海およびその海域と接続する北海道サロマ湖をテストサイトとして、地球観測衛星による水面上の氷画像の取得と、これに同期するトルースデータの取得を行なっています。サロマ湖は面積150.35km?、周囲長90.24km の我が国最大の汽水湖です。オホーツク海と2 つの湖口で通水しており、冬になると全面結氷する海跡湖です。湖水の塩分は、流入する河川の河口周辺を除いて外洋とほぼ同じ値(31~33psu)を示し、湖氷は外洋の海氷とほぼ同じ物理特性を有しています。そのため、氷が海氷と似た構造になり、湖面は障害物のない広大な氷の大地へと変化します。
このような環境が極地と似ているため、冬には全国から多くの研究者が訪れ、サロマ湖は海氷に関する基礎研究や、南極地域観測隊の事前演習のフィールドとなっています。これまで、衛星リモートセンシングを利用した氷厚推定技術の開発を目的として、サロマ湖氷上において衛星搭載マイクロ波センサによる観測と同期した現場データの取得を行ってきました。
サロマ湖の広範囲に及ぶ氷厚分布を効率的に取得するために、橇に搭載した電磁誘導式氷厚計を用いて氷厚を連続測定する手法の開発に取り組んでいます。サロマ湖の氷厚分布の特徴として、湖面結氷初期には風下側である東岸付近で結氷が始まり最も厚い全氷厚を示し、その後は河川の影響を受けて塩分濃度が低くなっている南側で最も全氷厚が厚くなるということがわかってきています。
舘山 一孝Kazutaka Tateyama
社会環境系 准教授